作品概要
青山美智子氏(1970年生まれ、愛知県出身・横浜在住)は、2017年の小説家デビュー以降、『木曜日にはココアを』や『猫のお告げは樹の下で』などで数々の文学賞を受賞・ノミネートされてきた実力派作家。本作『リカバリー・カバヒコ』は、刊行後すぐに2024年本屋大賞ノミネートを果たした作品である。
物語は、新築分譲マンション「アドヴァンス・ヒル」と、その近くにある古びたカバのアニマルライド「カバヒコ」を舞台に展開する。都市伝説によれば、「自分が治したい部分」を触ると回復するといわれるカバヒコには、人々の深い悩みや傷を癒す“癒しの力”が宿っており、住人たちはそれぞれの痛みに寄り添いながら、新たな一歩を踏み出していく。刊行直後には書店巡回で実物大の“リアルカバヒコ”展示や、Amazonオーディオブック発売記念イベントも行われ、話題を呼んだ。
全5編からなる連作短編集で、第1話「奏斗の頭」、第2話「紗羽の口」、第3話「ちはるの耳」、第4話「勇哉の足」、第5話「和彦の目」の構成。章ごとに異なる主人公が、自身のコンプレックスや心の痛みと向き合い、「再生」の多様なかたちを描き出す珠玉の連作である。
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第1話「奏斗の頭」
あらすじ
高校入学と同時に「アドヴァンス・ヒル」へ引っ越してきた奏斗は、急な成績不振に戸惑い、自信を喪失している。ある日、日の出公園でクラスメイトの雫田さんと出会い、カバヒコの伝説を知った奏斗は「頭脳修復」を願い、カバヒコの頭を撫でる――。学業への焦燥と友情の揺れ動きを繊細に描いた冒頭作である。
考察コメント
- 公立中学時代の成績優秀者が、高校環境の変化で勉強できなくなる……これは中学受験を目指す皆さんにも起こりうるリアルなシナリオです。
- 「できていた自分」を失う痛みは、自信喪失や不安を招きますが、それを乗り越える過程から多くを学べるでしょう。
- 誰もが経験しうるこの心の揺れ動きを、ぜひ自分自身の受験勉強にも重ね合わせて考えてみてください。
本編は2025年度の栄東中学校東大特待Ⅰ、佐久長聖1、東洋大学京北1の3校で入試素材文として採用され、受験生には「成績不振から立ち直る心情の変化」を問う設問が出題された。
第4話「勇哉の足」
あらすじ
小学4年生の勇哉は、駅伝の選手に選ばれたくない一心でケガを装い、嘘をついてしまう。しかし、その罪悪感から自尊心が揺らぎ、整体師・伊勢﨑さんの「回復しても前とまったく同じには戻らない」という言葉に触発され、真実と向き合おうとする姿を瑞々しく描いた成長譚です。
考察コメント
- 嘘をついてしまったあとの葛藤は、誰もが一度は味わったことのある普遍的なテーマです。
- 自己正当化と後悔の間で揺れる心情が丁寧に描かれており、読む者に深い共感と問いかけをもたらします。
- 勇哉の経験を通して、「自分の弱さ」とどう向き合うか、自分なりの答えを見つけるきっかけにしてみてください。
2024年度の芝中学校二次試験および甲陽学院中学校1日目で素材文として出題され、受験生は嘘をついた後の勇哉の心情変化を80字程度でまとめるなど、深い読解力と記述力を問われる問題に取り組んだ。
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